不妊外来の開設と体外受精-胚移植の開始について

| 不妊外来の開設と体外受精-胚移植の開始について |

近年の出生率の著しい低下と相まって、不妊症は増え続けており、当院ではこの重要な疾患に真剣に取り組んでおります。これまで、排卵誘発・洗浄人工授精・各種内視鏡下手術などを積極的に導入してまいりましたが、平成20年7月より不妊治療の切り札とも言うべき体外受精-胚移植を開始することとなり、更に幅広い対応が可能となりました。また予約外で来院が必要な患者さんをお待たせすることのないよう、不妊専門外来を新たに開設し、統一された方針で治療を進めてまいります。不妊症治療の詳細につきましては、下記をご覧下さい。


配偶子・胚操作専用の培養室(3N病棟)

| 当院における不妊治療について |

1.はじめに

赤ちゃんが欲しくてもなかなかできない。病院にいって検査した方がいいかもしれないけれどなかなか勇気が出ない・・・当院はそんな悩みをもっている方々のお力になれるよう、患者さん一人一人に合った検査・治療を行っております。 不妊症とは結婚後に避妊期間を除いて2年以上赤ちゃんに恵まれない状態とされていますが、ご年齢や既往歴によっては1年とすべき患者さんもいらっしゃいます。その原因には非常に多くの種類がありますが、まずは初診時の問診・診察結果からポイントを絞って順次検査を進めてまいります。検査自体が妊娠率を高める可能性があるもの(子宮卵管造影など)や、そのまま妊娠に至る可能性があるもの(フーナーテスト)などもあり、比較的早くご妊娠される方もいらっしゃる反面、先に手術を検討すべき状態であったり(子宮筋腫・卵巣のう腫・内膜ポリープなど)、人工授精や体外受精が必要となる状態である場合もあります。 当院で不妊症の治療を行うことにつきましては、総合病院であるメリットを活かすことができると考えております。その一つは不妊関連の手術を行う体制を整えていることで、短めの入院期間で低侵襲な内視鏡下手術(腹腔鏡・卵管鏡・子宮鏡)を積極的に行うようにしております。 二つめは緊急入院・手術に対応していることです。排卵誘発に伴う合併症として有名な卵巣過剰刺激症候群や、妊娠判明後に万一切迫流産や子宮外妊娠を起こしてしまった場合などでも即時入院が可能です。また人工授精・体外受精の実施にあたっては、当院では専用の培養室を設けていますので、良好な環境で適切な精子調整・卵子および胚操作を行うことが可能となっています。 ご妊娠希望の場合、まず初めは通常どおり初診で受診して頂きます(そのためお待ち頂くことがあるかもしれません)。その後は排卵前後など比較的高頻度に来院して頂く時期もありますので、極力お待たせすることのないよう独立して設置しております不妊外来へお越し頂くことになります。また当院の治療はステップアップ法を基本としており、原因があればその治療を行った上で極力自然に近い形での妊娠を目指しておりますので、理由なく過剰な検査・治療を行うことはありません。

2.妊娠のメカニズム

卵子は卵巣の中で、卵胞に包まれるような形で成熟します。そして、月経周期の中頃(月経開始日から約2週間後)になると卵胞が破れ、卵子が排出されます。これが排卵です。飛び出た卵子は、卵管の先にある卵管采と呼ばれるひだでキャッチされ、卵管内に入ります。そこでタイミングよく精子と出会えば、受精となります。受精卵は分割を始め、3~4日かけて子宮へと運ばれて行き、しばらくすると子宮の内側の膜にもぐり込みます。これを着床といい、妊娠が成立したことになります。排卵から約1週間の道のりです。全長50ミクロンの精子に比べ、卵子の大きさは直径約0.2ミリ。見ようと思えば肉眼でも見ることができます。この卵子がほぼ1ヵ月に1個、2つある卵巣の一方から排卵されます。


3.基礎体温について

基礎体温は今からでもすぐにつけはじめて下さい。そしてかならず診察の時にはご持参下さい。数周期前の表を見直すこともありますので、少し前のものもお忘れなくお持ちください。 基礎体温は線で結んでつなげて下さい。また月日、および月経周期(月経初日を1日目として何日目にあたるか)、月経(X)、帯下(+)、性交(○)、腹痛、処方された薬の服用日などをなるべく詳しく記入して下さい。


月経周期は排卵までの期間(卵胞期)によって決まります。また年齢と共に卵胞期は短縮する傾向があります。排卵後の高温期(黄体期)は一定(約12~14日)ですので、予定月経開始日から12~14日差し引くと排卵日が予想出来ます。体温陥落日が最も排卵日の可能性が高いとされていますが、それでも約60%であり、±1日程度の幅があります。測定時刻が変わっても、4時間以上睡眠した後であれば大きな変化はないとされています。測定方法につきましては、下図を参考にして下さい。


4.不妊症の主な原因とその検査・治療について


(1) 排卵障害・卵成熟障害 基礎体温によって排卵に関する障害(無排卵・遅延排卵など)の有無がわかります。体重変動に伴う排卵障害が疑わしい場合には、その改善をして頂きます。また月経中に各種ホルモンの基礎分泌値を測定することで、下垂体ホルモン・副腎ホルモン・性腺ホルモンの異常の有無を確認します。 LH(黄体ホルモン)がFSH(卵胞ホルモン)より高い場合や、男性ホルモン高値などの場合には多嚢胞性卵巣(PCO)を疑います。FSH値は卵巣の予備能力を知ることにも役立ちます。また乳汁産生を促すホルモンであるプロラクチン(PRL)が高い場合はやはり排卵障害を引き起こします。このPRLは抗精神薬によって上昇することがありますので、初診の問診時には服用している薬剤があれば必ずお教え下さい。 薬剤による治療としては、卵子の成熟に効果があるとされる漢方薬を用いたり、排卵誘発薬を使用したりします。排卵誘発薬には多胎や卵巣過剰刺激症候群のリスクがありますので慎重な使用を心がけています。またPCOの場合は腹腔鏡下卵巣多孔術を行うことで約8割に自然排卵が戻るとされており、当院でもよく行っております。
(2) 卵管障害 月経終了直後の子宮内膜が薄い時期に子宮卵管造影検査(HSG)を行い、卵管通過性・卵管水腫・卵管癒着・子宮内腔異常などの確認を行います。この検査は子宮の入り口より細いチューブを挿入し、レントゲンの透視下に造影剤を注入しながら撮影を行っていくものです。造影剤の種類によっては、その散らばり具合を見るために翌日も撮影を行うことがあります。

卵管が詰まっていた場合には卵管鏡下卵管形成術(FT)を行ったり、卵管癒着や卵管采(卵管の先の卵子をピックアップする部分)閉塞の場合には腹腔鏡下卵管癒着剥離術・卵管采形成術などを行います。卵管癒着・閉塞を起こす感染症としてはクラミジアが有名で、HSGをする前に血液検査または頚管粘液を採取して感染の有無を確認しています。陽性の場合は抗生物質による治療をご夫婦共に行っています。卵管水腫が重症で不可逆的な場合には、その内容液が着床を妨げる原因となりますので腹腔鏡下に卵管切除を行った後に体外受精を行うこともあります。 また簡便な方法として卵管通気・通水を行うこともあります。
(3) 精子の障害 不妊症の約半数に、程度の差はあれ男性因子が認められます。従って精液検査は非常に重要です。3~4日の禁欲期間の後に(長すぎても良くありません)外来でお渡しする滅菌容器に採取して出来るだけ早く持参して頂きます(ご主人が来院する必要はありません)。この検査によって異常が認められても、再検査で問題ないこともあるため短絡的な診断は出来ません。 治療としては、洗浄人工授精(wAIH)や体外受精(顕微授精)を行うこととなります。

(4) 子宮頚管障害 排卵期には頚管粘液の分泌が多くサラサラになるため(排卵期におりものが増量する自覚がある方は、このピークが性交渉のタイミングとなります)、この時期にのみ精子は子宮内に進入することが出来ます。ところが頚管粘液分泌不全や抗精子抗体の存在などのために、その進入が障害されることがあります。排卵日付近にこの頚管粘液を採取して(卵胞発育を見る超音波検査と共に複数回検査をすることがあります)、それを乾燥させた結晶の状態を観察して判定をします。 さらにフーナーテスト(PCT)といって3~4日の禁欲の後、排卵直前~排卵日にタイミングを合わせて検査日前夜~当日朝の間で性交渉をして頂き、外来にて頚管粘液中の運動精子を数えることで、問題なく子宮内まで精子が達しているかどうかを見ることが出来ます。 PCTはタイミングが非常に重要ですので、その前に1~数回外来受診をして頂き排卵日を厳密に予測する必要があります。不良であった場合は再検査を行うこともありますが、精液検査所見と併せて検討の上、洗浄人工授精や体外受精に進むことがあります。またPCTは間接的な精液検査であるとも言えます。
(5) 器質的な障害
上図のような各種婦人科疾患は初診時の経膣超音波検査にてすぐに確認することが出来ます。このうち妊娠に悪影響を与えると考えられるものについては手術にて切除を行います。当院ではその多くを内視鏡下手術で行っております。詳細はホームページ内の「当院における産婦人科内視鏡下手術について」をご覧下さい。
(6) その他の検査について 今まで述べてきた検査の他にも色々な検査があり、必要に応じて適宜行ってまいります。高温期中期に十分なホルモンが分泌され、よい着床環境となっているかを見るための血中エストラジオール/プロゲステロン採血や子宮内膜組織診。他の血液検査として、末梢血検査・炎症反応(他の疾患の有無)、感染症(肝炎・梅毒・風疹など妊娠後も見据えて確認します)、甲状腺機能異常や高血糖の有無(妊娠に悪影響を与えます)などを見ます。また細菌感染も胚の発育・着床に悪影響を及ぼしますので、子宮頚管~腔内の細菌培養を月経中に行います。

5.当院における不妊症の治療方針


 

まず一般検査は、月経周期に合わせて時間を無駄にすることがないよう合理的に、かつ治療も兼ねて行ってまいります。検査後の基本的なステップアップはこのようになりますが、患者さん一人一人事情が異なりますので、臨機応変に方針を決めていきます。

6.タイミング療法について

経膣超音波にて卵胞のサイズが約20mm、子宮内膜厚が約10mmに達し、頚管粘液量が増量し羊歯状結晶形成が(3~4+)となり、場合によっては尿中LH測定を行い陽性反応が出ると排卵が予測されます。このタイミングをお教えすることで排卵期に確実に性交渉をすることが可能となります。また人工授精の場合も同様ですが、排卵後の高温期初期にも超音波を行い確実に排卵したかを確認することも重要です。


7.洗浄人工授精(wAIH)について


精液の状態がよくない場合、フーナーテスト不良の場合、タイミング療法で結果が得られなかった場合などに行う方法です。細いチューブを子宮内腔へ挿入して、シリカ粒子や培養液などで選別濃縮洗浄した良好な精子を排卵に合わせて注入します。これに伴う痛みはほとんどなく、注入後は数十分の安静のみで終了しますが、精子のカウント・調整に約40分~90分かかりますので、読書でもしてお待ち頂ければ幸いです。なお当院ではアイソレイト2層法やswim-up法などにて精子の調整を行っております。

8.体外受精-胚移植(IVF-ET)について

体外受精とは、調整した精子と体外に取り出した卵子を体外で受精させることです。こうしてできた胚を子宮や卵管にもどすことを胚移植といいます。タイミング療法・人工授精で効果が得られない場合や治療困難な卵管性不妊の場合、原因不明の長期不妊の場合などに体外受精を行います。また精子が元気ではないなどの理由で体外でも自然の受精が期待できないときには、顕微鏡下で人為的に授精させる顕微授精が行われます。


ちなみに2003年度の日本における総出生児数は1,123,600人でしたが、このうち17,400人は体外受精で生まれた赤ちゃんでした。つまり、65人に1人は体外受精(生殖補助医療)によって生まれたことになり、現在では更にその数が増えているとされています。このように、もはや体外受精は特殊な治療ではなくなっています。 当院では生殖医療指導医のもと、良好なチームワークで治療にあたらせて頂きます。体外受精専用の培養室には最新の設備を備えて、配偶子(卵子・精子)・胚(受精卵)操作を清潔な環境下で行い、常に質の高い治療が行えるよう努力しております。不妊症・体外受精につきましては、豊島/田島がメインの担当医として拝診させて頂きます。また体外受精に関しましては、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室の久慈直昭講師を顧問にお迎えしております。

9.日常生活へのアドバイス

赤ちゃんは夫婦共に心身が健康な状態ですと授かりやすいものです。これから述べることを日常生活の中で活かして心身ともに健康を維持して頂ければ、必ずよい結果につながります。また不妊を克服する上で最も大切なことは、お互いの気持ちを理解し合うことです。夫婦間で思いやりの精神を持ち、決してあせったり落胆したりしないで楽な気持ちで(なかなか難しいことですが・・・)治療に取り組んで頂ければと思います。
(1) 血行の改善 衣服:今流行のスリムな服は、ものによってはタイトすぎて体をしめつけますから避けましょう。女性のガードル、男性のブリーフもよくありません。 姿勢:長時間の車の運転やパソコン操作をするときなどは途中で体操をしたりして体を動かすようにしましょう。 運動:日頃から適度な運動を心がけましょう。足をあげての自転車こぎ、腹筋、柔軟体操など風呂上りにでも始めてみましょう。
(2) 温度 女性は冷えによる下半身の血行障害が起こりやすいので注意しましょう。男性は精巣の温度が上がりすぎると造精機能が低下するので、長時間のコタツなどは避けたほうがよいでしょう。
(3) 体重・食事 やせすぎ、太りすぎは確実に生殖機能に悪影響を及ぼします。適正体重を保つようにしましょう。また偏食をしないで家庭料理を中心に野菜・果物・肉・魚をバランスよくとり、間食やジャンクフードは控えましょう。
(4) 嗜好品 タバコは妊娠~出産はもちろんのこと、健康に関していいことは一つもありません。禁煙しましょう。またアルコールは適度であればかまいません。
(5) 衛生・入浴 下着は清潔に、生理用品は雑菌が繁殖しやすいタンポンは避け、ナプキンを使いましょう。また入浴は清潔を保ち、その上ストレスを解消させたり、血液の循環を改善しますから男女共におすすめです。入浴のポイントはぬるめのお湯にゆっくりとつかることです。
(6) ストレス 精神的な悩みのために無排卵になったり、男性の性機能障害を引き起こすことがあります。かといって現代人でストレスがなく暮らしている人などはおりませんから、些細なことでクヨクヨせず楽しい会話や趣味でストレスをためないようにしましょう。また寝不足はイライラの原因になりますから十分な睡眠時間をとるように心がけましょう。
(7) 性交 禁欲期間は2~5日程度とし、あまり長くならないようにしましょう。また性交は予定排卵日のみでなく、その後にも完全に高温期になるまで行うことも大切です。人工授精となった場合でも、その後に自然で性交を行うことも効果的なことがあります。
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